Financial Management

2011/07/20

頭が痛くなりました

先日あるセミナーを聴講したのですが、その際に以下の質問がありました。聞いていて頭痛を覚えたので、早々に退席しました。

  1. 日本では銀行が個人保証を求められるから問題
    そんなことはありません。こちらのレポートにもある通り、米国においても中小企業向け融資には株主の個人保証が求められることがほとんどです。何せ中小企業庁(SBA)が銀行に保証を出す要件として、20%以上を保有している株主の個人保証を求めるのですから。株式公開を目指す企業がはじめからVCからの出資のみで資金調達した場合や、非公開でもジョンソンの様な大企業(日本ならサントリーでしょうか?)なら個人保証はなくても資金調達できるでしょうが、まぁ多くの中小企業はそうではないですよね。
    短期プライムレートベースでの借入を求めるのであれば、オーナー経営者が自らの財産を投げ打つ覚悟を示していただかなければ貸倒リスクと釣り合わないのです。多くの中小企業経営者が会社と個人の区別を余り厳密に付けていない現実も無視するべきではありません。また、保証人に資産がなければ保証は債権保全という観点では無意味で、精神論でしかありません。
    確かに、包括根保証はやりすぎだと思います。最近は原則として期間と金額を明確にした保証しか取れないはずですし、第三者担保についての規制という声も出ている様ですから、もはや的外れの議論と思います。
  2. 一度会社をつぶせば再起の目はない
    そんなことはありません。そんな後ろ向きな人はそもそも経営者に向いていないのではないでしょうか。例えば、この本の著者の方はは4代目として事業承継を受けた会社を潰していますが、それを逆手にとってコンサルタントとしてご活躍です。要は本人が思いつめないことです。反社会的勢力やその関係者でもない限り、命まではとられません。
  3. 投資ファンドも長期的視野で対応することが理解されていない
    ファミリービジネスの経営者の考える短期・中期・長期とは何年か、ある研究者の方に聞いたことがあります。答えは「短期は10年、中期は30年、長期は100年超」でした。ファンドの方の持っているホライズンは恐らく最長で10年、多くの場合5年ではないでしょうか?100年ファンドと称した投資ファンドもありましたが、今や跡形もありません。オーナーの短期とファンドの超長期が漸く合うことをお互いが理解して、互いの良い面が出るような関係にならないと、投資家も経営者も不幸です。投資ファンドは数年で別れる運命にあるパートナーであることを理解しなければなりませんし、ファンド側もそこを曖昧にしてはいけません。昨今はファンドの数も多いのできちんと説明しているのか不安です。ファンド側は経営計画の月次フォロー(管理会計でいうところの差異分析ですね)を徹底的に行うことの意義を経営者に理解させなければなりません。そこの緊張感から成長できる会社でなければ投資ファンドを迎え入れてはいけません。

こんな簡単なことは専門家なら知っているのかと思っていましたが、知られていない現実(講師も含めて皆うなずいていました)、憂鬱な思いで会場を後にしました。

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2010/11/12

ブックレビュー『同族経営はなぜ3代でつぶれるのか』

@FamilyBiz_Takei こと武井一喜さん著「同族経営はなぜ3代でつぶれるのか?」読了。自らが4代目社長であったファミリービジネスを整理した経験をお持ちで、現在はファミリービジネスに係るコンサルタントをしておられる筆者が、ファミリービジネスが3代で潰れない為にファミリーメンバーが考えるべきことを網羅的に解説された書籍です。

日本においては、ファミリービジネスは同族企業と訳され、余り良いイメージはありませんでした。ダイエー、三洋電機、赤福等の世間の耳目を集める事件は、「同族経営故の」と評されます。法人税法においても、「特殊同族会社の留保金課税」や「同族会社の行為計算否認」という具合に、同族会社は税逃れをするものと捕らえられています。実務の世界でも、同族会社向けのコンサルといえば、まずは相続税対策が提供されてきた経緯があります。

しかし、一方で戦後の日本の税制は同族会社が事業を継続するには酷過ぎたのも事実であり、相続税率の引き下げ(それでも高すぎる最高税率50%)や基礎控除の拡充によって整備された基盤の上に、平成21年度税制改正において事業承継税制が(使えないという批判はありながらも)導入されています。民主党政権が主税局の尻馬に乗って相続税の増税に向かうのは時代錯誤であり、自らもビジネスオーナーファミリーご出身である岡田幹事長が体を張って阻止して頂きたいと、個人的に勝手に希望しています。

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2010/11/10

ブックレビュー『起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと』

@isologue こと磯崎哲也先生の『起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと 』を拝読致しました。いや、発売早々に買ったし、先生のご講演を拝聴もしていたんですが、諸事情により本を読み終わったのが今になってしまいました。内容は既にレビューがたくさん出ているので、詳しくは紹介しませんが、感想をいくつか。

  • エンジェルやVCからの資金調達が必要な事業を考えている起業家が、ファイナンスで落とし穴に落ちない為には必読であることは間違いないと思います。むしろ、起業家がそれを今まで知らなかったことについては、関係者の一端にいる人間としては反省しなければいけないと思います。最近は上場前のVBに関与する例は殆どないのですが、考えなければいけないなと。
  • この本、増刷を続けている様ですが、それだけ注目を集めているのは、著者の人徳もさることながら、日本においてもVB周辺の温度が沸点に近づいているのではないかと感じます。過去数度のベンチャーブームを経て、漸く定着するかもしれないと期待しております。
  • しかし、問題なのは日本の株式市場の低迷です。筆者もIPO市場の低迷は認識されていて、バイアウトが増えないといけないと考えておられるようです。ただし、株式市場が低迷している状況では、株式交換等でバイアウトした場合の起業家側のリターンが期待できませんし、キャッシュでやろうにも市場がネガティブにしか反応しないのではいかんともしがたいかと。Googleに見初められるようなビジネスモデルでもない限り、バイアウトもしんどくないかなと。著者の昨年来の主張である預金税(個人的には、預金者から見ると預金保険料との2重負担になってしまう気がしますが、そういうことはマイナーイシューとしておいておくぐらいの思い切りが必要な時期かも)の導入により、資本市場にニューマネーが入ると違うのかもしれません。

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2010/08/12

非上場親会社等が絡んだ再編事例

いつか落ち着いて考えようと思っている内に、3か月近く経過してしまいましたが、黒川木徳フィナンシャンルホールディングス(以下KKFG)から組織再編に係るリリースが5月20日付けで出ています。大まかにいうと、同社の70%超を保有する非上場のクレゾー社と合併した後に、同社が60%超を保有する黒川木徳証券(以下KKSEC)を完全子会社化する株式交換を実施するというものです。しかし、関係者はこれだけではなく、理解する為には、KKFGの沿革を紐解く必要があります。

同社は複数の商品先物取引取扱会社が経営統合して出来上がった大洸フューチャーズ社がKKSECを傘下に納めた独立系企業でしたが、平成19年にアエリアという携帯コンテンツ会社がファイナンス事業に参入するとして、同社の株式を取得し、先物取引取扱い事業から撤退する過程で社名もKKFGと改められています。平成20年8月段階では、KKFG株式の60%超を保有する親会社であります。

しかし、KKFGの業績は余りアエリアに貢献せず、平成20年8月にはアエリアはKKFG株を同社の100%子会社であるクレゾー社に譲渡することを含む、ファイナンス事業の再編計画を発表します。ちなみに、この株式譲渡に伴い、単体で1.3億円の株式譲渡損を計上したそうです。クレゾー社は株式購入資金をアエリアからの借入金により調達しています。金額的に減損するまでの損失額ではないということで、連結では変化なしとしています。

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2010/05/12

資産管理会社と事業会社の合併事例

ゴールデンウィーク明けに興味深い開示がありました(会社のプレスリリースはこちらから)。枕のメーカーであり、ジャスダック市場上場会社であるモリシタさんが同社オーナーである森本一族の資産管理会社と思われる森茂興産と合併する旨の開示です。

自ら認めておられます様に、4月24日付取締役会決議で決議しているのに、5月6日になって「失念しておりました」という開示ができる会社であります。同日付の取締役会では、定款変更を株主総会に諮る旨の決議をしていたようで、これもまた開示していない上に、決欲取り消すというどたばたぶりです(この件に関するリリースはこちら)。上場廃止予定(決算短信にその旨記載があります)であるとはいえ、今はまだ上場会社ですからしっかりして頂きたいものです。

さて、被合併会社である森茂興産です。リリースによりますと、モリシタの森下会長、森下社長ご一族で発行済株式の100%を保有し、かつ同社はモリシタの発行済株式の19%を保有しているとのことですから、森下家の資産管理会社であると考えられます。事業内容は不動産業ですが、これもオーナー一族の資産管理会社にはよくある話です。設立は昭和62年ですから、モリシタの店頭登録(平成4年)前ということになります。普通このような会社は保有上場株式について含み益があり、当該非上場株式を財産評価基本通達にある純資産価額方式で評価する際の所謂「42%控除」が使える筈ですが、リリースの「算定の根拠」には「純資産707,034千円より不動産減損280,346千円および有価証券減損81,312千円を差し引いて、改定純資産345,375千円となり」との記載がありますので、あらまあということであります。

以下について、念の為ご注意です。筆者は法務・税務・財務会計上の、あるいは投資に関するアドバイスを意図して本ブログを書いておらず、またその様な立場にはありません。内容については出来る限り正確にと思っていはいますが、それを保証するものではありません。読者の方が本ブログの記載にもとづいて行った行為の結果については、ご自身が自己の責任(あるいはご自身のアドバイザーのアドバイスに基づき)行うものであり、筆者は一切責任を負いません。また、以下は一定の仮定

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2010/02/08

つくろって済むことなのか

nikkei.net KDDI、JCOMへの出資比率3分の1以下に 金融庁指摘でから。

取得予定だった株式のうち、3分の1を超える部分(約4.5%分)の引受先について、取引金融機関などと協議を始めた。リバティが保有株をすべて手放し、KDDIが筆頭株主になる枠組みは維持する方針。4.5%分のJCOM株は単純計算で400億円を超えるため、引受先の確保が当面の焦点となる。

そこまで相対に拘る理由は何なんでしょうかね。売り手である米国LLC側の事情としか思えませんが。

ところで、今回は金融庁と調整済みなんだとは思いますが、疑問が1つ。共同保有者にならない株主を選ばなければなりませんよね?実質論が続くと、たとえ明文の合意がなくても、議決行使について暗黙の同意や同意せざるを得ない実態ががあった場合は、やっぱり法の精神には抵触するという論点もあり得る思うのですが、いかがでしょうか。

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2009/10/28

冷静にコメントしづらいはなし

  1. 某大臣
    (i)郵政の取締役交替はまさに株主主権である件(それってあんたが嫌いな米国流でないの?)
    (ii)郵政に元官僚を送り込んで喜んでいる件(次は資金運用部でも復活させるおつもりなのだろうか?)

    (iii)ゆうちょ銀行と地方銀行で中小企業に協調融資させると意気込んでいる件(信用保証協会同様に不良債権しか回ってこないことが判らない訳はなかろうに)

    (iv)会計コンバージェンスについて勉強していない件(貴方の嫌いな上場企業の連結優先なんですし、小泉・竹中が辞めてから決まったんですから)
  2. ジャスダックと大証ヘラクレスの統合
    ネオとヘラクレスグロースという上場ルールも開示ルールも異なる市場を一緒にして良いのか?ネオに問題がないとはいわないけどさ。
  3. 「介護の勉強したい」と証言したらしいどこぞの被告
    「介護」という言葉の意味を判っているのか?

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2009/08/27

株式持ち合い、信託で解消

26日日経新聞「株式持ち合い、信託で解消 住友信託銀行が新型」から。

株式の持ち合い解消を促す取り組みが官民で広がってきた。住友信託銀行は企業が持ち合い株を手放しやすいように工夫した新商品を開発。持ち合い先の議決権を実質的に持ち続けながら、株式を売却できる信託商品で、30社強が活用を検討している。政府も今年に入って持ち合い株の買い取り再開に乗り出した。経済効果が見えにくく、株価下落に伴う評価損の計上リスクなどもある持ち合いの是正を後押しする。

持合株式については、IFRS導入もアゲンストに働きそうな気配ですから、解消に向けた取り組みが出てもおかしくはありません。しかし、一度は解消方向に向かった日本企業の持合が、その後復活したのを見るにつけ、本格的な解消は難しいのではないかと思ったりも致します。ある会社の総務ご担当者が以前、「阿吽の呼吸だからね」と仰っていたのを思い出します。

住友信託の商品は保有株を同行が管理する信託勘定に譲渡するものの、信託期間中(1~5年を想定)は企業が議決権の行使を同行に指図できるようにして、議決権を事実上残す仕組み。同行の提携先であるドイツ証券が企業に株式の譲渡代金を支払い、信託期間の終了とともに同証券がこれらの株式を取得する。信託期間中に株式が市場で流通することはない。

この仕組みだと、ドイツ証券は信託期間中の価格変動リスクをどうやってリスクヘッジするのでしょう。信託勘定に譲渡する価格は当然時価未満でしょうが、時価相当額での売りオプションを購入(期待される配当額の現在価値まではオプション料に充当できるかと)しようにも、期間が長いと受け手がいる様には思えません。

信託受益権をリパッケージして販売したりするのでしょうが、どうやってワークする仕組みを考えたんでしょうね。

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2009/08/24

ロバートブラウン角瓶

サントリーとキリンの経営統合スキームでもう1つ検討しておくべきものがありました。

それは、

  1. キリンが寿不動産の株式を全株式取得して100%子会社化
  2. 寿不動産が公開買付等によりサントリーホールディングスを100%子会社化
  3. グループ内再編により、キリンホールディングス傘下各社とサントリーホールディングス傘下各社を並列化

というものです。この方式で経営統合したのは、プロミスと三洋信販です。この方式の特徴は、寿不動産もしくはサントリーホールディングス株式を保有している鳥井家の方々にはキャッシュがいき、キリンホールディングスの株式を保有することはない為に、鳥井家の新会社への影響力が、少なくとも持株比率という点ではなくなることです。プロミスと三洋信販の事例では、三洋信販は子会社として存続はしていますが、役員にも創業家は見当たらない位に徹底しています。

キリン側から見ると、(7000~1兆ともいわれる)現金の流出は財務的にかなり痛いですが、三菱UFJFG一丸となれば調達できない金額ではありませんし、持株比率で鳥井家の影響力は残らず、フリーハンドで臨めるというメリットがあります。

一方で、サントリー側から見ると、「キリンに買収される」というイメージになることは否めませんし、鳥井家は将来の統合グループの株価上昇の果実を放棄することになります。ただし、すぐに現生が入っていくるということにメリットを感じる方々がいらっしゃってもおかしくはありません。

どんな形で決着が付くにせよ、面白い事例です。

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2009/08/14

伊右衛門生茶

夏休みに入って、キリンとサントリーの経営統合に関するいくつかの記事を読む機会がありました。ビジネス面でのメリットや同業他社へのインパクトに加えて、サントリーのオーナーファミリーの資産管理会社であり、筆頭株主でもある寿不動産の存在も取り上げられています。ただし、経営統合後に株式を売却すれば莫大な売却益が入るという話にとどまっています。前の記事には売却益の話を入れていませんでしたので、補足も含めて再論。

今回の経営統合の、最も単純なスキームは、サントリーホールディングスとキリンホールディングスの合併です。各種の記事ではこれが税制適格合併になるかを検討しています。上場企業同士であれば、「共同事業要件」さえ充足すればよく、同業同士の合併の場合はまず問題になりません。今回、サントリーが非上場会社ですので、もう1つの要件である「株式の継続保有要件」にも目を配る必要がありますが、サントリーそのものは50名超の株主がいますので、この要件の適用はありません。合併の結果、現サントリーの大株主である寿不動産は、合併会社の株式(上場株式)を取得しますが、税法上の継続保有要件が求められないので、売却可能ということです。

しかしながら、寿不動産のサントリー株式の取得価額と合併後の上場株式の株価には大きな差があります。「鳥井家に売却益が転がり込む」といわれる所以です。しかし、売却するのは寿不動産という法人です。法人の場合、売却益は全て益金ですから、実効税率40%の法人税の計算上の課税所得になります。総合課税ですから、損益をトータルして税金がかかるとはいえ、何十億円単位になると、カバーできる損金を計上することは困難です。そして、鳥井ファミリー個人にお金を戻すには、配当金という形になります。そうすると、配当控除を勘案しても最高税率44%弱という総合課税です。話を簡単にすると、10億円売ってほぼ同額の売却益があったとしても、法人税4億差し引き後の6億円しか配当できず、6億円の配当所得があっても、手取りは3億円強、つまり売却益の約3分の1、という話になります。他に方法はないの?となりますね、普通。

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