Audit (Japan)

2010/07/05

有価証券報告書虚偽記載に係るオーナー経営者の責任

金融庁の課徴金処分を争った数少ない事例の1つである、ビックカメラの有価証券報告書虚偽記載に係る新井同社元代表取締役会長に関する結論が6月25日に出ています。色々な意味で注目されていた訳ですが、「元会長は有価証券届出書および目論見書虚偽記載であると認識していたとは認められないので課徴金処分は課さない」という結論になりました。

  • 虚偽記載か否か、目論見書作成における代表取締役会長の関与について踏み込んだ判断を示さなかったことは残念であります。会社が虚偽記載を認めているのにも拘わらず、虚偽ではないという結論はあり得ない訳ですが、折角の審査なのですから、実際にどの様に判断するべきだったのかについての判断も欲しかったと思います。
  • 元会長が虚偽記載を認識していたかについて、虚偽記載であることを前提として判断したと留保しつつも、ニュアンスとしては虚偽記載があったと判断している様には見えます。というのも、元財務担当役員氏は、独断で、東京計画の実態上の株主やビックカメラが北陸銀行に提出した「経営指導念書」の存在を、会計監査人や主幹事証券会社、証券市場に隠していたという事実を認定しており、これらは虚偽記載を少なくとも当該元役員は認識していたと読めるからです(あくまで、私の主観です)。
  • 元会長としては、「細かい会計処理については知らなかったので、担当役員、会計監査人、金融機関、ストラクチャー提案者の言うとおりにした」というのは本音だと思いますので、これで名誉回復できたということかと思います。当時は非上場ですから、別に元会長のプライベートカンパニーが資金提供してもしなくても、みずほからの借入金が減らせればよいという程度の判断でも決して不穏当ではない気がします。
  • その後、上場し、株式の売出しも行っているので、色々と問題になる訳ですが、これも元会長としては「上場審査時に主幹事証券もジャスダックも東証も何も言わなかったのに、それを今になって自分の責任問われても」ということでしょう。そういう意味では、今回の結論は代表取締役かつ筆頭株主が責任を問われる範囲がある程度はっきりできたので、意味は大きいかなと思います。
  • 一方で、ビックカメラの内部統制は、平成14年当時から一貫して効いていなかったという認定に読めます(財務担当役員が「独断で」虚偽記載工作を行い、それは金融庁調査が入るまで社内では「誰も」知らなかった)。上場前提にも拘わらず、この程度の内部統制の仕組みしか構築しなかった経営責任が、元会長にはあるとは言えるだろうと思います。
  • 効かない内部統制を見逃した会計監査人、主幹事および証券取引所が何か対応するのでしょうか(多分正式に発表するようなものないと思いますが、各法人としてこの件をどう考えているのかということです)。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/02/10

ピアレビューに限界はあるのか

10日付日経新聞「会計士の不正、協会チェック「甘い」・金融庁」から。

公認会計士などの業務を監視する金融庁の「公認会計士・監査審査会」は9日、日本公認会計士協会に対し、協会による会計士の不正チェックが甘いとして改善を求めた。監査に使った書類の中身を精査していないなど手続きがずさんなうえ体制も不十分だと指摘。詳細なチェック項目の策定や担当者の大幅増などを求めた。問題が解消しなければ金融庁に行政処分を求める方針だ。

公認会計士協会による監査のチェックは、ピアレビューとも呼ばれる手続きです。協会の会員である公認会計士が別の会員の監査をチェックするというシステムは、担当者の質および量の確保や「馴れ合い」を排除できるのかといった点で批判があります。

アメリカではPCAOBという組織ができて、そこが会計事務所の監査をチェックする仕組みです。金融庁の「公認会計士・監査審査会」もPCAOBと同等の組織のはずですが、公認会計士協会のピアレビューをチェックすることにとどまっているのは、やはり担当者の質と量の確保ができないからです。

その意味では、公認会計士試験のほどんどが監査法人や(税理士登録後に)税理士法人に勤務するという実態から変わらないといけないんでしょう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005/01/25

足利銀行の会計監査人が戒告処分

25日付日経新聞「金融庁、中央青山を戒告処分へ・足銀監査で内部管理不備」から。

「金融庁は24日、中央青山監査法人に対し、一時国有化された足利銀行の経営破たんに至るまでの監査で、内部管理体制に不備があったとして公認会計士法に基づき戒告処分とする方針を固めた。監査結果を通知する前に内容を第三者が的確に審査していなかったほか、監査過程などを記録する法定資料の作成を怠っていたという。」

アンダーセン崩壊の過程では相当な混乱が生じた訳ですから、寡占状態になっている大手監査法人に対する厳しい処分は、影響力を考えると、そう簡単にはできないのが実情でしょう。また、監査実務にあたる公認会計士の方々とてプロフェッショナルですから、簡単な手法で実質債務超過を隠していたのであれば、発見できていた筈ですので、「重大な見過ごし」や「虚偽の判断」があるとは思えません。そういう意味でもアンダーセンとエンロンは例外的だったのだと思います(個人的にそう思いたい面があることも否定しません)。

しかしながら、投資家としては、投資家の立場に立った会計監査に期待するところは大きいのも事実であります。会計監査人とて万能ではありませんから、結果責任をすべて負わされるのではなり手がなくなってしまいますが、複雑化する企業活動をしっかりと監査できる能力を開発する努力を怠ってはいけません。監査論でいう「期待ギャップ(expectation gap)」をどのように埋めるかという、極めて根本的な問題でもあります。

金融庁は昨年から中央青山を調査。その結果、担当会計士が虚偽の判断をしたことは認められなかったものの、本部が監査結果を十分に再点検していなかったなど業務を進める上で社内の管理体制に問題点が多く見つかった。
中央青山は戒告処分により、内部審査の徹底など業務の改善を求められる。金融庁は足利銀行についてこれまで「銀行の判断で破たんの申し出があった」と説明、監査法人の判断には言及していない。

足利銀行は地元企業への増資要請に、中央青山監査法人の適正意見のついた財務諸表を使っていた訳ですから、結果的に投資家の期待を裏切った監査となったことに対する反省をしてもらわなければなりません。法人内の審査体制を改善することも必要ですが、個々の会計士の監査能力向上に向けた取り組み姿勢も示していくことを求めたいと思います。

中央青山以外の監査法人に同様のことが求められます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004/12/27

会計監査人の解任

25日付日経新聞「中央青山監査法人を解任」から。

「顧客管理システム構築のイーシステムは24日、監査法人だった中央青山監査法人を解任し、ASG監査法人(東京・千代田)に変更すると発表した。中央青山が取引先の取引内容を確認しようとしたことについて、「守秘義務違反に当たる」(管理本部)と判断したため。

「監査法人を解任」ではなくて、「会計監査人を解任」だという、突っ込みはさておき、会社のプレスリリースはこちらです。「守秘義務違反」云々は日経新聞の記者による取材らしく、プレスリリースでは「監査手法に対して認識の相違」があることのみを述べています。

さて、会計監査人の解任に関する商法特例法の規定は以下の通りです。

(会計監査人の解任)
第六条 会計監査人は、何時でも、株主総会の決議をもつて解任することができる。
2 前項の規定により解任された会計監査人は、その解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対しこれ<によつて生じた損害の賠償を請求することができる。
3 第三条第二項及び第三項前段の規定は、会計監査人の解任を株主総会の会議の目的とする場合について準用する。
第六条の二 会計監査人は、次の各号の一に該当するときは、監査役会の決議をもつて解任することができる。
 一 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つたとき。
 二 会計監査人たるにふさわしくない非行があつたとき。
 三 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないとき。
2 前項の規定により会計監査人を解任したときは、監査役会が選任した監査役は、その旨及び解任の理由を解任後最初に招集される株主総会に報告しなければならない。
3 第一項の規定により解任された会計監査人は、前項の株主総会に出席して意見を述べることができる。
(会計監査人の選任等についての意見陳述)
第六条の三 会計監査人は、会計監査人の選任、不再任又は解任について、株主総会に出席して意見を述べることができる。
(会計監査人の欠けた場合等の処置)
第六条の四 会計監査人が欠けた場合又は定款で定めた会計監査人の員数が欠けた場合において、遅滞なく会計監査人が選任されないときは、監査役会は、その決議をもつて一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければならない。
2 第四条、第五条及び第六条の二の規定は、前項の職務を行うべき者について準用する。

今回の解任は監査役会の決議による解任ですから、6条の2第1項に列挙された3つのどれかに該当すると、監査役会が判断したことになります。「監査手法に対する認識の相違」では、そのいずれにも該当しない可能性が高いと思われます。

「取引先の取引内容の確認しようとしたことは守秘義務違反」という会社側の説明が、1の「職務上の義務に違反」もしくは、2の「非行」に該当するのかどうか。中央青山の言い分も聞きたいところですが、監査法人は個別の件のディスクロージャーはしてくれないようです(正午現在WEBサイトに記載はありません)。

そもそも、「取引先の取引内容の確認」というのが、どのような行為なのでしょうか。監査実務経験のない私には判りませんが、「取引先「と」の取引内容の確認」であれば、普通に行われている行為だと思います。「取引先の取引内容」という表現は、そこらへんとあえて違う表現ですですから、何なのでしょうか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)