Business Law (Japan)

2010/08/12

非上場親会社等が絡んだ再編事例

いつか落ち着いて考えようと思っている内に、3か月近く経過してしまいましたが、黒川木徳フィナンシャンルホールディングス(以下KKFG)から組織再編に係るリリースが5月20日付けで出ています。大まかにいうと、同社の70%超を保有する非上場のクレゾー社と合併した後に、同社が60%超を保有する黒川木徳証券(以下KKSEC)を完全子会社化する株式交換を実施するというものです。しかし、関係者はこれだけではなく、理解する為には、KKFGの沿革を紐解く必要があります。

同社は複数の商品先物取引取扱会社が経営統合して出来上がった大洸フューチャーズ社がKKSECを傘下に納めた独立系企業でしたが、平成19年にアエリアという携帯コンテンツ会社がファイナンス事業に参入するとして、同社の株式を取得し、先物取引取扱い事業から撤退する過程で社名もKKFGと改められています。平成20年8月段階では、KKFG株式の60%超を保有する親会社であります。

しかし、KKFGの業績は余りアエリアに貢献せず、平成20年8月にはアエリアはKKFG株を同社の100%子会社であるクレゾー社に譲渡することを含む、ファイナンス事業の再編計画を発表します。ちなみに、この株式譲渡に伴い、単体で1.3億円の株式譲渡損を計上したそうです。クレゾー社は株式購入資金をアエリアからの借入金により調達しています。金額的に減損するまでの損失額ではないということで、連結では変化なしとしています。

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2010/07/05

有価証券報告書虚偽記載に係るオーナー経営者の責任

金融庁の課徴金処分を争った数少ない事例の1つである、ビックカメラの有価証券報告書虚偽記載に係る新井同社元代表取締役会長に関する結論が6月25日に出ています。色々な意味で注目されていた訳ですが、「元会長は有価証券届出書および目論見書虚偽記載であると認識していたとは認められないので課徴金処分は課さない」という結論になりました。

  • 虚偽記載か否か、目論見書作成における代表取締役会長の関与について踏み込んだ判断を示さなかったことは残念であります。会社が虚偽記載を認めているのにも拘わらず、虚偽ではないという結論はあり得ない訳ですが、折角の審査なのですから、実際にどの様に判断するべきだったのかについての判断も欲しかったと思います。
  • 元会長が虚偽記載を認識していたかについて、虚偽記載であることを前提として判断したと留保しつつも、ニュアンスとしては虚偽記載があったと判断している様には見えます。というのも、元財務担当役員氏は、独断で、東京計画の実態上の株主やビックカメラが北陸銀行に提出した「経営指導念書」の存在を、会計監査人や主幹事証券会社、証券市場に隠していたという事実を認定しており、これらは虚偽記載を少なくとも当該元役員は認識していたと読めるからです(あくまで、私の主観です)。
  • 元会長としては、「細かい会計処理については知らなかったので、担当役員、会計監査人、金融機関、ストラクチャー提案者の言うとおりにした」というのは本音だと思いますので、これで名誉回復できたということかと思います。当時は非上場ですから、別に元会長のプライベートカンパニーが資金提供してもしなくても、みずほからの借入金が減らせればよいという程度の判断でも決して不穏当ではない気がします。
  • その後、上場し、株式の売出しも行っているので、色々と問題になる訳ですが、これも元会長としては「上場審査時に主幹事証券もジャスダックも東証も何も言わなかったのに、それを今になって自分の責任問われても」ということでしょう。そういう意味では、今回の結論は代表取締役かつ筆頭株主が責任を問われる範囲がある程度はっきりできたので、意味は大きいかなと思います。
  • 一方で、ビックカメラの内部統制は、平成14年当時から一貫して効いていなかったという認定に読めます(財務担当役員が「独断で」虚偽記載工作を行い、それは金融庁調査が入るまで社内では「誰も」知らなかった)。上場前提にも拘わらず、この程度の内部統制の仕組みしか構築しなかった経営責任が、元会長にはあるとは言えるだろうと思います。
  • 効かない内部統制を見逃した会計監査人、主幹事および証券取引所が何か対応するのでしょうか(多分正式に発表するようなものないと思いますが、各法人としてこの件をどう考えているのかということです)。

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2010/02/08

つくろって済むことなのか

nikkei.net KDDI、JCOMへの出資比率3分の1以下に 金融庁指摘でから。

取得予定だった株式のうち、3分の1を超える部分(約4.5%分)の引受先について、取引金融機関などと協議を始めた。リバティが保有株をすべて手放し、KDDIが筆頭株主になる枠組みは維持する方針。4.5%分のJCOM株は単純計算で400億円を超えるため、引受先の確保が当面の焦点となる。

そこまで相対に拘る理由は何なんでしょうかね。売り手である米国LLC側の事情としか思えませんが。

ところで、今回は金融庁と調整済みなんだとは思いますが、疑問が1つ。共同保有者にならない株主を選ばなければなりませんよね?実質論が続くと、たとえ明文の合意がなくても、議決行使について暗黙の同意や同意せざるを得ない実態ががあった場合は、やっぱり法の精神には抵触するという論点もあり得る思うのですが、いかがでしょうか。

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2010/01/29

公開買付規制

ロイターの記事 焦点:KDDIのJCOM出資手法は適法か、TOB解釈で専門家も二分から。

KDDI(9433.T: 株価, ニュース, レポート)のジュピターテレコム(JCOM)(4817.Q: 株価, ニュース, レポート)への資本参加をめぐり、法律の解釈で専門家の意見が割れている。

結果として、KDDIが有報提出会社であるジュピターテレコムの株式の3分の1超を取得する訳ですから、実質的には公開買付をしなければいけないケースであることは異論がないと思います。特に、その後にKDDIがジュピターテレコム株式を直接保有するストラクチャーに再編する案でもあった場合には、「気持ち悪いな~」という思いもひとしおでありましょう。

金融商品取引法(旧証券取引法)がどちらかというと形式的な要件を重視する規定振りである(インサイダー取引のバスケット条項は例外...かな?)ことは、ライブドアによるニッポン放送株式取得や村上ファンドによる阪神電鉄株式取得が法令違反とされなかったことからも、きっと「定説」なんだと思います。その意味では今回もきっと「セーフ」なんでしょう。

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2009/08/14

伊右衛門生茶

夏休みに入って、キリンとサントリーの経営統合に関するいくつかの記事を読む機会がありました。ビジネス面でのメリットや同業他社へのインパクトに加えて、サントリーのオーナーファミリーの資産管理会社であり、筆頭株主でもある寿不動産の存在も取り上げられています。ただし、経営統合後に株式を売却すれば莫大な売却益が入るという話にとどまっています。前の記事には売却益の話を入れていませんでしたので、補足も含めて再論。

今回の経営統合の、最も単純なスキームは、サントリーホールディングスとキリンホールディングスの合併です。各種の記事ではこれが税制適格合併になるかを検討しています。上場企業同士であれば、「共同事業要件」さえ充足すればよく、同業同士の合併の場合はまず問題になりません。今回、サントリーが非上場会社ですので、もう1つの要件である「株式の継続保有要件」にも目を配る必要がありますが、サントリーそのものは50名超の株主がいますので、この要件の適用はありません。合併の結果、現サントリーの大株主である寿不動産は、合併会社の株式(上場株式)を取得しますが、税法上の継続保有要件が求められないので、売却可能ということです。

しかしながら、寿不動産のサントリー株式の取得価額と合併後の上場株式の株価には大きな差があります。「鳥井家に売却益が転がり込む」といわれる所以です。しかし、売却するのは寿不動産という法人です。法人の場合、売却益は全て益金ですから、実効税率40%の法人税の計算上の課税所得になります。総合課税ですから、損益をトータルして税金がかかるとはいえ、何十億円単位になると、カバーできる損金を計上することは困難です。そして、鳥井ファミリー個人にお金を戻すには、配当金という形になります。そうすると、配当控除を勘案しても最高税率44%弱という総合課税です。話を簡単にすると、10億円売ってほぼ同額の売却益があったとしても、法人税4億差し引き後の6億円しか配当できず、6億円の配当所得があっても、手取りは3億円強、つまり売却益の約3分の1、という話になります。他に方法はないの?となりますね、普通。

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2009/05/26

大量保有報告と信託

上場オーナー企業の関係者の方から、お子様の名前を出さずに株式を贈与する方法はないか、というご相談を受けることがよくあります。いわく、大量保有報告書の記載事項が詳細過ぎるので、そこにお子様の名前を出したくない、ということなんですね。

大量保有報告書はEDINETで誰でも過去5年間分は見ることができますので、見ていただきたいのですが、共同保有者(*)ということになると、氏名・住所・生年月日・保有株数・保有割合・担保等の重要な契約・取得資金といった項目を記載しなければなりません。株式市場というインフラを利用する上場企業の大株主という存在ではありますが、普通これだけの情報をネットで「晒す」人っていませんよね?

(*)未成年であれば、金商法27条の3第3項第2号に該当しますので、共同保有者として個別開示ではなく、親権者が自己の保有分に加えて「未成年者の親権者として●●株保有」とすれば良いことになります。それでも未成年のお子様がいらっしゃることとその保有株数は判りますので嫌といえば嫌と思われるようです。

成人したお子様は議決権等独自に行使するので共同保有者ではないと主張される方もいらっしゃいます。本当に親から独立しているのであれば宜しいのですが、親ごさんが議決権行使書面をまとめている実態があれば、共同保有者に該当するとせざるを得ません。罰則のある法令ですから、上場企業のオーナー経営者としては意図的に違反する訳にはいきません。

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2009/04/23

上場会社の社名変更

磯崎哲也先生からの宿題「今週の島耕作(上場会社の決定事実と適時開示)」です(^^)。

問1.この決定プロセスにおいて会社法上考えられる問題点について、あなたの考えを200字以内で書きなさい。

社名変更は定款変更という株主総会決議事項であり、当該会議をもって正式決定とは考えられない。また、取締役が株主総会召集を決定したと考えても、議題以外の総会召集に伴う事項が決定された形跡はなく、問題が残る。当該会議を、取締役会議題に「社名変更」を加える旨の指示とした場合、内部管理体制としてビデオ会議の扱いが明確かが問題となろう。

問2.初芝五洋ホールディングスはなぜ5月に株主総会を行うのでしょうか。会社法、金融商品取引法、法人税法等の観点から、考えられる可能性を述べなさい。

最も自然な解釈は、初芝五洋ホールディングスが所謂2月決算の会社だとするものであろう。当該会社のような上場企業の場合、決算期末から3か月目の最終週前後に株主総会を実施することが実務上最も多いとされている。

決算期末が9月末等であり、かつ社名変更に緊急性がある場合には、5月に臨時株主総会を招集する可能性も考えられる。

(所謂3月決算の上場会社が5月に定時総会を開催する場合の問題や、5月に臨時総会、6月に定時総会とする場合の問題は詰め切れませんでした。)

問3.下線部(a)では日本側スタッフが「このことは5月の株主総会まではマル秘だからな!」と言い、島社長も「正式にマスコミに公表するのは5月の株主総会」と述べています。

商号又は名称の変更を上場会社の業務執行を決定する機関が決定したことは、東証規程による適時開示事項である。従って、当該会社の業務執行を決定する機関が決定した時点で適時開示が必要であり、総会当日まで公表しない場合、最悪株式の上場を取り消される懸念がある。上場会社の社名変更の例としてパナソニックに沿えば、取締役会で決定した時点で適時開示、定款変更を議題とする総会召集通知を決定した時点で開示、および6月の株主総会で定款変更が議決された旨の開示を行うべきである。

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2009/03/26

時価以上売買

26日付日経新聞 平田財務副大臣、保有株を信託せず売却 大臣規範に抵触 から。.

自民党衆院議員、平田耕一財務副大臣(60)=比例東海ブロック=が今月、証券市場を通さない市場外取引で、ジャスダック上場の石こうボードメーカー「チヨダウーテ」(三重県四日市市)の大量の株を市場の倍近い価格で売却していたことが、25日分かった。売却額は6億円を超える。在任中の株式売買自粛や保有株式の信託を求めた「大臣規範」に抵触する。

譲渡先であるゼロシステム社について、新聞記事では、平田副大臣が90%出資し、親族が役員に名を連ねる会社となっています。となると、自分から自分が支配している会社への譲渡ですから、必ずしも「大臣規範」に抵触しないといえないでしょうか。言葉は悪いですが、「右の財布から左の財布」へ移したようなものですから、実質的には移動していないのではないかと。もちろん、「大臣規範」が広く「売買」を禁じている場合には、文理上は違反していることにはなるのでしょうが。

ただし、「右の財布から左の財布」へ時価以上で売却したとなると、いくつか論点があります。

  • EDINETで大量保有報告書を拝見しましたが、平田副大臣とゼロシステム社は別個に報告書を提出しておられます(平田副大臣は保有比率の減、ゼロシステム社は新規の大量保有報告)。しかし、ゼロシステム社を実質的に副大臣が支配しているとなると、共同保有者として取扱うべきではないでしょうか。その場合、今回の異動は「共同保有者の増」という理由で、平田副大臣が変更報告書を提出するのが、金融商品取引法の趣旨に沿うのではないでしょうか。
  • ゼロシステム社は、時価以上の価額で株式を購入していますが、税務上問題はないのでしょうか。仮に、平田副大臣がゼロシステム社の「みなし役員」に該当すると、時価を超える部分は役員賞与になる可能性はないでしょうか。「みなし役員」に該当しないとしても、特定の株主への利益の供与ですから、「贈与」となる可能性も考えなくてはなりません。その点はどうなのでしょうか。
  • 信託大好きおばちゃんさんもご指摘の通り、たとえ上場株式であっても、相対取引の場合の譲渡所得に係る所得税率は20%です。証券会社を経由すれば10%ですから、わざわざ税率で損をしています。また、みなし取得価額も使えません。過去にいわゆる「クロス取引」を行っており、その価格が取引価格を上回っていれば、譲渡所得は発生しませんので、今回は恐らくそのような事例だったのでしょう。

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2009/02/10

公益法人の経営

磯崎哲也事務所さん 「漢検」で思った、公益法人の利益についての素朴な疑問から。

公益法人を取り巻く環境がいつも安定してたり、資金に困ったときは必ず寄付が集まるというなら問題ないですが、そんなはずあるわけないわけで、「ゴーイングコンサーン」として活動し、活動規模を大きくしていくためには、それなりの資金を保持し、拡大していく必要があるはずです。

詳しい事情は私も判りませんが、今回の漢字検定の場合は、公益事業そのもので利益が盛大に積み上がったのが問題なんだと思っていました。つまり、検定料収入>>費用という状態を、理事会が放置したのだと。だったら、営利法人がやる途もあるだろうと。

確かに、非営利法人が活動を続けていく為の基盤の充実は大事だとは思います。しかし、それは公益事業から生じた剰余金ではなく、基金や基本財産あるいは運用財産およびその運用体制を充実させることでなされるべきではないかなと思います。

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2008/12/22

MBOと利益相反行為

シャルレのMBOは、結局創業家出身の取締役2名が年内に、その他の社外取締役の方々も株主総会で後任が決まり次第退任されることで決着したようですね。

本件については、内部通報制度が機能したことや、設置された第三者委員会の調査報告書が、かなり突っ込んで当事者間のやり取りを再現していることもあり、将来にわたって何度も参照される事例となるかと思います。

MBOに参加する経営陣と売却を強いられる少数株主の間に利益相反が働くのはもちろんでありますし、それを避ける為には、利益相反の渦中にいる経営陣は当然、それを避ける役割が期待される社外取締役も、注意深い行動が求められることに、異論はありません。

今回の社外取締役の方々は、買付者側に対して「もう一声」という交渉は行っています。その過程で、買付者側のアドバイスを受けたり、買付側の価格に近づけるような経営計画の下方修正を容認する等の疑念を生じる行動はありますが、この会社の経営に直接携わっている訳ではない方々としては、止むを得ない部分もあるのではないでしょうか。

経営計画というのは、実現に向けて経営陣以下がコミットできなければならない訳ですから、その策定から経営陣を排除する訳にはいかない筈ですし、前提条件1つダウンサイドに違っただけですべての数字ががらっと変わることだってある筈です。そこのところを裁量を大きく歪めず、かつ少数株主の利益を守るには、関係者はどのように対応するべきなのか、という大きな課題が残った事例という気が致します。

同時に、今後当社を担われる役職員の方々のご健闘を祈念致します。

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