書籍・雑誌

2010/11/11

ブックレビュー:Wise Growth Strategies in Leading Family Business

Joachim Schwass, Wise Growth Strategies in Leading Family Businesses, palgrave macmillan 読了。会社の同僚の推薦です。著者はIMDで Family Business の教授で、IMDが1996年から2004年にかけて Distinguished Family Award で表彰した会社について、どの様に経営者の世代交代、つまり事業承継に成功裏に取り組んできたかを研究した成果物です。

海外の事例にもとづいていますから、日本に直接当てはまる保証はないとはいえ、理論的な説明には説得力があります。この本で著者が提唱しているのは、次のマトリックスです。

phase / interests Family Ownership Management Individual
Do Child-parent relationship Control dependent Professional assertion Personal leadership
Lead-to-do Adult-adult relationship Control struggle Leadership assertion Organizational leadership
Let do Parent-child relationship Control versus vision Governance assertion Institutional leadership

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2010/11/10

ブックレビュー『起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと』

@isologue こと磯崎哲也先生の『起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと 』を拝読致しました。いや、発売早々に買ったし、先生のご講演を拝聴もしていたんですが、諸事情により本を読み終わったのが今になってしまいました。内容は既にレビューがたくさん出ているので、詳しくは紹介しませんが、感想をいくつか。

  • エンジェルやVCからの資金調達が必要な事業を考えている起業家が、ファイナンスで落とし穴に落ちない為には必読であることは間違いないと思います。むしろ、起業家がそれを今まで知らなかったことについては、関係者の一端にいる人間としては反省しなければいけないと思います。最近は上場前のVBに関与する例は殆どないのですが、考えなければいけないなと。
  • この本、増刷を続けている様ですが、それだけ注目を集めているのは、著者の人徳もさることながら、日本においてもVB周辺の温度が沸点に近づいているのではないかと感じます。過去数度のベンチャーブームを経て、漸く定着するかもしれないと期待しております。
  • しかし、問題なのは日本の株式市場の低迷です。筆者もIPO市場の低迷は認識されていて、バイアウトが増えないといけないと考えておられるようです。ただし、株式市場が低迷している状況では、株式交換等でバイアウトした場合の起業家側のリターンが期待できませんし、キャッシュでやろうにも市場がネガティブにしか反応しないのではいかんともしがたいかと。Googleに見初められるようなビジネスモデルでもない限り、バイアウトもしんどくないかなと。著者の昨年来の主張である預金税(個人的には、預金者から見ると預金保険料との2重負担になってしまう気がしますが、そういうことはマイナーイシューとしておいておくぐらいの思い切りが必要な時期かも)の導入により、資本市場にニューマネーが入ると違うのかもしれません。

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2009/10/07

書評:ジャパンプライド

知人から「面白いよ」とジャパン・プライドを紹介されました。

メガバンク(作中では東西銀行となっていますが、作者はどこに取材して、どこを念頭に置いたのでしょうか?)の行員達とその顧客等が、リーマンショックを切り抜けるべく動き回る様子を描いたフィクションです。最後に関係者が集まる場を作ってはいますが、1つの小説として描くには無理があったかのではないかと思いました。確かに、現実は複数のストーリーが同時平行で進行し、多くの顧客を抱えるメガバンクの行員としてはそれをマネージしなければならないでしょうが、ちょっと欲張り過ぎてないかなぁと。

印象に残ったのは、「日本人は打たれ強くなった」という言葉です。幕末から明治維新の世代や敗戦から高度成長期の礎を築いた世代も強かったとは思いますが、バブル崩壊後の世代も随分頑張ったと思います。私自身についてもそう思いたいです。しかし、だからといって「日本経済最強」とは思いません。ここからが正念場です。そういう思いを強くしました。

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2009/06/03

書評:企業価値最大化の財務戦略

知人から紹介された本ですが、柳良平「企業価値最大化の財務戦略」読了。

著者略歴によりますと、都市銀行を振り出しに、上場企業のIRおよび財務部長を経て、現在は外資系金融機関でIRアドバイザリーに従事されている方だそうです。ググるとある程度のことは判りますが、勤務されていた大手メーカーさんはIR姿勢の良い会社として有名でありますね。その方が、現在は外資で発行体企業に対してIRアドバイザリーを提供され、かつこのような書籍を上程されている訳ですから、貴重な存在だと思われます。

本書の内容も財務理論が、投資家側ではなく、発行体企業サイドでどのように利用されるべきかということを、実務経験をもとに解説されていますので、貴重な書籍であるといえます。文章のそこかしこに、機関投資家寄りのニュアンスが滲み出ています(投資家の利害とステークホルダーの利害は必ず一致する等)が、現代財務理論的には正当な主張ですし、各方面へのご配慮もある訳でしょうから、ご愛嬌の範囲内でしょう。

突っ込みどころとしては、理論の適用を厳密にすればする程実務が回らなくなるのではないか、という疑問にもう少し答えて頂きたかったかなと思います。つまり、理論的な企業価値は、前提条件を1ついじると大きく変わることがままある訳で、例えば毎月DEBTの調達金利を市場実勢に即して変えて理論的企業価値を計算していたら、昨今のような債券市場においては、その差に右往左往させられるリスクがあるといえます。そこをどのように「割り切って」考えて、実務を行っておられたのかなと思います。

今回は導入編でしょうから、次回作に期待したいと思います。その場合、例えば、大株主との経営権を巡る小競り合いの過程で、会社側提案がまたしても否決されたアデランスが、どのようなIRを行えば、スティール以外の株主の賛同を得られたかの考察等もお願いしたいところです。

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2009/02/11

書評:ファミリーオフィス

野村證券ファミリーオフィス研究会訳『ファミリーオフィス―富裕層向け財産管理の新潮流』は、米国でファミリーオフィスに対してなされた調査結果をまとめた書籍を翻訳したものです。米国のファミリーオフィスはどのようなことをしているのかを知りたい層に向けた本といえます。

ファミリーオフィスが富裕層に提供しているサービスは、およそ、富裕層が求めているもの全てに及ぶようです。メインはファミリーの資産運用ですが、それ以外にもコンシェルジュ的なことであったり、タックスプラニングであったりを、専門家と協力しながらやっている、もしくはこれから手がける(やらされる?)予定というアンケート結果ですね。それはそれでそんなもんかいなということです。

ふうんと思ったのは、ファミリーオフィスに3種類あるとしていることです。3種類とは、シングルファミリーオフィス、マルチファミリーオフィス、そしてコマーシャルファミリーオフィスです。

シングルファミリーオフィスというのは、1つのファミリーのみにサービスを提供するファミリーオフィスのことで、超々富裕層ファミリー(ロックフェラーとか)でないと、とても費用をまかなえないということです。

マルチファミリーオフィスというのは、中核となるファミリーの他に、その知り合いのファミリー等をサービス提供の対象としているファミリーオフィスです。1つのファミリーでは費用をまかなえなかったり、高度な運用商品を提供してもらうには運用資産の額が足りない場合には、より多くのファミリーの資産を集めてみようという発想ですね。欧米には専門の会社があるそうですから、ある意味ではサービス業として成立するのでしょう。問題は、資金的な貢献が少ないファミリーと多いファミリーをどう差別的に取り扱えるかという運用の難しさのようです。

コマーシャルファミリーオフィスというのは、個人向けの金融商品を提供しているプライベートバンクのことです。当然、良い顧客には個別対応で色々なニーズに答えてくれますので、ファミリーオフィスとみなすことができるようですが、要は金融機関のプライベートバンキング部門の顧客になることです。大手の金融機関ともなると、ノウハウの蓄積により、ある程度の質のサービスは期待できます。シングルファミリーオフィスとなると、ファミリーオフィサーの交替により、サービスの質が大きく変わる可能性がありますからね。

ファミリーオフィサーの給与水準も高いようですし、欧米ではすっかり確立されたサービスなんだなと実感いたしました。日本のことについては、稿を改めて考えたいと思っています。

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2008/07/23

書評『新時代の相続税対策の徹底検証』

奥村眞悟著『新時代の相続税対策の徹底検証 改訂新版―あなたの相続税対策には危険がいっぱい!?』読了。

新信託法とその税務についての精力的に著作を発表されている奥村税理士の、相続対策一般に関する書籍です。信託に係っていらっしゃるからか、不動産関連の税制や相続対策には一家言お持ちでいらっしゃいますし、養子縁組のリスクについてのご説明も含めて、極めて適格に問題点が指摘されています。

一方で、非上場株式の相続税ベースの評価の実務については、若干誤解を招くような記述が見受けられたのが残念であります。

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2008/04/17

読了『ファミリーウェルス:三代でつぶさないファミリー経営学 改訂版―ファミリーの財産を守るために』

ファミリーウェルス:三代でつぶさないファミリー経営学 改訂版―ファミリーの財産を守るために (g.n.n.叢書)を読了。アメリカで富裕層ファミリー向けコンサルティングをしている弁護士によるコンパクトかつ論点網羅的な本です。

当然のことながら、法体系も税制も歴史も異なる国のことですので、即効性のある話ではありませんが、富裕層やそれに関連する人間が考えるべきことが数多く含まれています。

特に、ファミリーの資産の中で、人的資産を最重要視するべきだということは、次世代を育てる責任を意味しますが、ビジネスの拡大に没頭している創業者がなかなか時間とコストをかけられないことではないでしょうか。その場合に、次世代にはメンターが必要なのですが、初期にその役目を期待できる叔父・叔母がいないことが増えつつある昨今の日本の家族の現状というのは、好ましくないことになるのかもしれません。確かに、親の事業に悪印象を持っている子供世代が増えている気がします。別にその事業に直接携わることが全てではない訳ですが、ファミリーの金融資産を生み出している事業について理解がない次世代の存在は、事業そのものにも悪い影響を与えかねません。

日本もファミリー経営の老舗企業が多くある訳ですが、それらを研究対象とした書籍や論文についても探していますが、不案内で上手く見つかりません。アマゾンで推薦される類書もジャーナリスティックな雰囲気か、実務的すぎるかに見えます。何か良いものがあれば、ご一報頂きたいです。

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2005/12/04

書評「新会社法の実務Q&A」

関根稔他編、清文社刊「新会社法の実務Q&A―税理士・会計士・社長の疑問に答える」 は、税理士、公認会計士、司法書士等の実務家が、メーリングリスト上での議論をきっかけに出版することになった本です。メーリングリストが母体の書籍というのは、実務書では珍しいのではないでしょうか。


内容は、実務家として興味があるテーマをQ&A形式でまとめていて、実務上困ったときに該当部分だけ見直せば良いようになっていて、実践的といえます。特に、特例有限会社関連(P350~353)のところは、私も興味をもってまとめていたのですが、秀逸なまとめ方をされていると思います。


一方で、政令委任が多い会社法の性格上、帯にあるように「決定版」と銘打つのはどうかと思います。発起設立で銀行の保管証明が不要になったのは良いのですが、では増資の時はどうなのだろうか、という実務家の方の疑問に答える記述は見当たりません。実際、会社法の条文で明記されていないのですが、この本の性格からいってある程度の推測があっても良かったなと思います。


いずれにしても、実際に会社法にまつわる実務に関わる人間には有益な一冊といえると思います。

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2005/02/17

書評「詳説自社株評価Q&A」

尾崎三郎監修、竹内陽一・掛川雅仁共編「詳説自社株評価Q&A」(清文社)は、帯に「商法・法人税法の改正を前提に、財産評価基本通達の非公開会社の株式の評価に関する実務上の疑問点に、明解に回答、Q&A形式により最新の情報で解説。」とありますが、まさにそのとおりの本だと思います。(アマゾンでご購入はこちらへ)。

この本の良いところは、まず薄いこと(^^)、Q&A形式になっていて実務上疑問が生じた際に参照ページを見つけやすいこと、です。非上場株式評価の参考書の定番は、現役の東京国税局資産評価官の方が執筆されていることから、「株式・公社債評価の実務―自社株の評価のために」(大蔵財務協会)(amazonでの購入はこちらへ)や「図解 財産評価」(アマゾンでの購入はこちらへ)でしょうが、本書はそれらよりもコンパクトにまとまっており、非上場株式評価が話題になりそうな時にかばんに入れて持っていこうと思えます。

読んでみて、法令や通達が実務家の実感とかけ離れつつあるということを改めて実感します。営業権の評価においても、基準年利率の変更という大きなイベントがありましたが、本書ではその問題点も指摘しています。実務書という観点からはそこまで踏み込む必要はない訳ですが、現場で相当問題になっていることが伺えます。こういう実務家の実感を反映した税制の構築ができると良いなと思います。

ここのところの法令・通達の変更は激しいものがありますので、こういう本が常に最新の法令にもとづいて、実務家の方々の手で執筆されるのは、大変なことだと思いますが、今後の改訂にも期待したいと思います。

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2004/12/29

書評『「敵対的M&A」防衛マニュアル』

野村證券株式会社IBコンサルティング部編『「敵対的M&A」防衛マニュアル 平時の予防策 緊急時の対応策』(amazonでご購入される場合はこちら)。

敵対的買収防衛策については、経済産業省の研究会が来春のとりまとめを目指して、ESOP制度やポイズンピル制度について、法的な正当性をどのようにして付与できるかを議論中らしいです。2006年4月に施行と言われる会社法現代化により、企業買収の手法の選択肢が増えることを受けて、企業経営者サイドからの注目もアップしているよです。

本書は証券会社の方が書かれた本なので、歴史についても、具体的な手法についても、事例についても、実務的な説明が中心になっています。企業の経営サイドの方向けの実務的な入門書としては良いかなと思います。

面白いのは、架空の事例を2つ取り上げていることです。1つは敵対的買収をしかけられた側からの防衛策作り、もう1つは敵対的買収をしかける側の戦略についてのものです。面白い試みですし、小さな説明コラムがあったりして親切ですが、短い読み物ですので、物語としての面白さも、実務への示唆も、ちょっと中途半端な印象なのが残念です。

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