資産管理会社と事業会社の合併事例
ゴールデンウィーク明けに興味深い開示がありました(会社のプレスリリースはこちらから)。枕のメーカーであり、ジャスダック市場上場会社であるモリシタさんが同社オーナーである森本一族の資産管理会社と思われる森茂興産と合併する旨の開示です。
自ら認めておられます様に、4月24日付取締役会決議で決議しているのに、5月6日になって「失念しておりました」という開示ができる会社であります。同日付の取締役会では、定款変更を株主総会に諮る旨の決議をしていたようで、これもまた開示していない上に、決欲取り消すというどたばたぶりです(この件に関するリリースはこちら)。上場廃止予定(決算短信にその旨記載があります)であるとはいえ、今はまだ上場会社ですからしっかりして頂きたいものです。
さて、被合併会社である森茂興産です。リリースによりますと、モリシタの森下会長、森下社長ご一族で発行済株式の100%を保有し、かつ同社はモリシタの発行済株式の19%を保有しているとのことですから、森下家の資産管理会社であると考えられます。事業内容は不動産業ですが、これもオーナー一族の資産管理会社にはよくある話です。設立は昭和62年ですから、モリシタの店頭登録(平成4年)前ということになります。普通このような会社は保有上場株式について含み益があり、当該非上場株式を財産評価基本通達にある純資産価額方式で評価する際の所謂「42%控除」が使える筈ですが、リリースの「算定の根拠」には「純資産707,034千円より不動産減損280,346千円および有価証券減損81,312千円を差し引いて、改定純資産345,375千円となり」との記載がありますので、あらまあということであります。
以下について、念の為ご注意です。筆者は法務・税務・財務会計上の、あるいは投資に関するアドバイスを意図して本ブログを書いておらず、またその様な立場にはありません。内容については出来る限り正確にと思っていはいますが、それを保証するものではありません。読者の方が本ブログの記載にもとづいて行った行為の結果については、ご自身が自己の責任(あるいはご自身のアドバイザーのアドバイスに基づき)行うものであり、筆者は一切責任を負いません。また、以下は一定の仮定
「あらまあ」な資産管理会社はやり直すに限るということで、上場会社と合併する事例というのは少なからずございます。資産に含み益がなく、かつ被合併会社が時価ベースで債務超過でないのであれば、合併が税制適格かどうかは余り関係ありません。一応、今回は森下一族が森茂興産については100%、モリシタについて70%弱を保有しており、森茂興産の不動産事業は合併後も継続する様ですから、税制適格合併ということになると思われます。となると、税務上は、モリシタは森茂興産の資産および負債を簿価で受け入れる仕訳を切らなくてはなりません。また、森茂興産の利益積立金を引き継ぐことが可能となります。ただし、森茂興産はモリシタ株式を保有していますから、森茂興産の資本金等から同社保有モリシタ株式の簿価を差し引かなくてはなりません。その結果、税務会計上の純資産も差し引かれます。簡単に試算しますと、森茂興産はモリシタ株式を968千株保有し、プレスリリース時点での株価190円/株を掛け合わせると184百万円が時価で、プレスリリースにある減損額を加えると265百万円が簿価と考えられます(森茂興産がモリシタ株式以外の時価のある有価証券を保有していないことを前提としています)。会社法会計上の純資産707百万円(内資本金103百万円)をそのまま税務会計上の帳簿価額とし、資本金等は資本金に等しいと仮定すると、合併直前の森茂興産の税務会計上の資本金等は162百万円のマイナス、利益積立金は604百万円となり、これがモリシタの税務会計上の純資産に加算されれます。また、モリシタと森茂興産の間では金銭貸借が1,331百万円(モリシタの決算短信の関連当事者取引欄に記載の金額です)ありますので、それが相殺されることも忘れてはいけません。
一方、財務会計上ですが、本年4月1日以降はパーチェス法が基本ですから本件もパーチェス法かと思ったのですが、「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針201項」により個人を頂点とする場合であっても、共通支配下の結合に該当し、パーチェス法の適用対象外となるものと思われます。それを反映してか、プレスリリースでも「4.合併後の状況」において、「総資産の額」および「純資産の額」は、「3.合併当事者の概要」に記載されている両社の合併前の総資産および純資産の合計となっているんですね。その結果、純資産はプラスとなって債務超過も解消!。ばんざーい。なんでもっと早くやらなかったんでしょうね。だって、合併期日が今年の2月だったら、前期末で債務超過は解消されて、上場廃止基準に明白に抵触しないではないですか。
?????
などと思った方は「あわてんぼう」です(笑)。私個人はこの「合併後の状況」の記載に納得できません。疑問点があります。
先ほども述べた様に、森茂興産はモリシタ株式を保有していますので、その帳簿価額を森茂興産の株主資本から控除しなければなりません。さきほどの計算でいくと、増える純資産額は442百万円になります。モリシタの債務超過額は636百万円ですから、まだ194百万円の債務超過となります。つまり、合併後の状況に記載すべき純資産額は「▲194百万円」ではないでしょうか?
また、総資産の額についても、両社間の金銭貸借1,331百万円がありますから、そちらも相殺された額でなくてはいけません。15,634百万円(合併前のモリシタの総資産)+442百万円(合併により増加するモリシタの株主資本)-1,331百万円(金銭貸借の額)=14,745百万円が本来記載される金額ではないのでしょうか?
また、「合併後の状況」には「会計処理の概要」という欄があり、そこに今回の合併をどの様に会計処理するのかを記載することになっていますが、「該当事項はありません」としているのはどうなのでしょうか?「両社は当社代表取締役森下茂およびその緊密な者が議決権の過半数を保有しており、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針201項における「共通支配下の取引」と会計処理を行う予定であります」云々と記載するべきだったのではないでしょうか?
何か勘違いがあるかもしれませんので、気が付いた方は是非教えて頂きたくm(__)m
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