優先株式
伊藤園さんといえば、お茶系飲料ですが、M&Aによりタリーズコーヒーの親会社だったりもします。資本政策的な観点からは、優先株式の発行・上場にチャレンジされたことで記憶に残る存在であります。
その伊藤園さんの大株主であるグリーンコア株式会社から7月3日付で大量保有報告書の変更報告書が提出されています。実は、伊藤園さんのように普通株式と優先株式を発行されている会社の大量保有報告書ってどうなるのかなと思っていまして、ここでようやく拝見することができましたので、備忘録的に。
- 大量保有報告書の書き方ですが、「法第27条の23第3項本文」列の「株券又は投資証券等」行に、普通株と優先株の合計を記載し、株券等保有割合も同様に普通株と優先株の合計で計算しています。大量保有報告書は持株比率ベースでの提出ですので、これで納得です。ちなみに、内訳は「取得資金の内訳」の「その他金額の内訳」を見ないと判りません。株式の無償株主割当ということですね。
- 今回の変更報告書の提出原因の1つは「保有割合が1%以上減少したこと」です。グリーンコア株式会社は普通株式と優先株式の両方を保有していますので、どちらを譲渡したでしょうか。変更報告書には、6月26日に「普通株式2,000,000株を市場外で1,260円」で処分した旨記載されています。当日の普通株の終値は1,373円、優先株の終値は833円です。普通株を約8.3%のディスカウントでブロックトレードで処分したと思われます。
なぜ普通株を処分したのでしょうか。グリーンコアは創業家である本庄家の資産管理会社ですし、今年は本庄家の次世代が伊藤園の社長に就任したばかりですから、議決権の減少を避けて優先株を処分する選択肢もあったはずです。考えられる理由は3つ。第1に、優先株の取引相手(買い手)がいなかったか、あるいは価格で折り合いがつかなかった。ブロックトレードの相手は機関投資家ですから、優先株の保有が認められていなかったり、価格が折り合わなかった可能性は極めて高いと思います。第2に、議決権よりも配当金を優先した。優先株には優先配当がありますから、議決権1%強の減少が経営に与える影響は少ないと判断して、グリーンコアとしての受取配当金を確保したのかもしれません。実際、優先株だけで約25億円(税前)を調達しようとすると、結構な株数を売却することになりますから、配当金という観点からも好ましくはなかったのかもしれません。それは、ブロックトレードの相手方も同じですから、後付かもしれませんが。第3の理由は税務です。伊藤園さんの説明によると、優先株の取得価額はゼロですから、優先株を譲渡した場合の譲渡益が高いのを避けたのかもしれません。しかし、大量保有報告書に記載されているグリーンコアの株式取得資金をグリーンコアが保有する普通株式数で割ると、取得価額は218円であり、1260円で売却した場合の譲渡益は1042円と、1株当たりの譲渡益は普通株の方が高いことになります。となると、優先株の処分では資金の調達ができなかったことになります。株価の差も広がっていますし、優先株の発行は、今のところ、マイナスに出ていると思われます。
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