日本のファミリーオフィス事情
日本にファミリーオフィスはあるか?私はあると思います。以下の4パターンが実在している筈です。
第1に、ビジネスオーナーが経営する事業会社内に「番頭さん」もしくは「ゲートキーパー」と呼ばれる方がいらっしゃるケースです。番頭さんの肩書きは、社長室長、秘書部長、財務部長、総務部長、あるいは監査役等と様々です。傾向としては高齢の方が多いかなと思います。財務部長や総務部長や監査役となると、他に仕事がありますから、コンシェルジェ業務までしているケースは少ないですが、資産運用から資産承継まで幅広く富裕層ファミリーの「窓口」として君臨されているケースが多いと思います。
第2に、資産管理会社がファミリーオフィスの機能を持っているケースです。資産管理会社はもともとは相続税の節税対策として設立されることが多いのですが、そこで専門家を雇用して、ファミリーへのサービスを提供しています。雇用されている専門家は、元プライベートバンカーや元事業会社の財務部長や一族のどなたかであったりします。このような方々は、専任であることが多く、ファミリーの幅広いニーズに対応していることが多いようです。
第3に、極めて稀ですが、プライベートバンカーや経営コンサルタントだった方が独立して複数のファミリーにサービスを提供する、マルチファミリーオフィス的なビジネスをされているケースがあります。私募形式の投資商品を金融機関に組成させるに当たり、複数のファミリーの資金を集めている例があります。
第4に、金融機関のプライベートバンキング部門がファミリーオフィス的なサービスを提供しているケースです。外資系のプライベートバンクが海外のイベントに招待する等、断片的に提供しているようですが、邦銀でもみずほFGさんはこんな子会社をお持ちのようです。彼らは、金融商品の販売で収益を上げるモデルですから(一時は投資銀行部門との連携で儲けていたところもあるようですが、本業はこっちの筈ですね)、付随的なサービスになりますが、大手金融機関のネットワークは馬鹿にはできません。
上記4類型のうち、第1と第2の類型については、背景は異なりますが、「ファミリーオフィサーの立場が不安定」ということがいえると考えています。
第1の類型では、ファミリーオフィサーとして働いている方々の肩書と仕事が一致していません。事業会社のしかるべきポジションとして肩書きをお持ちですが、その職務には本来含まれていないファミリーオフィサーとしての仕事をこなされていることになります。とすると、ファミリーオフィサーとしての仕事の報酬はどうなるのでしょうか?非上場の中小企業であれば、オーナー社長がそれなりに配慮すれば良いのかもしれませんが、それで必ず上手くいくわけではないでしょう。ましてや上場企業ともなると、オーナーファミリーへの対応をしているという理由で報酬を上げるようなことをすることは、一般株主への説明という観点からは、問題です。そういう意味では、こういうタイプのファミリーオフィサーはやがて減っていくのかもしれません。
第2の類型では、資産管理会社という完全にプライベートな会社の役職員ですから、大手を振ってファミリーの要望に応えることができます。しかし、何をしてもいいだけに、どこまでやれば良いのか不明瞭ですし、評価(というか報酬額ですね)基準もファミリーの気分次第です(「家族もしくは家族同様なんだから」で済まされているのがもっぱらのようです)から、やはり不安定なポジションです。欧米のファミリーオフィスにおいても、初期の頃は同じ問題が発生したらしいのですが、そこは契約社会ですから、職務内容と評価体系の文書化が必須になってきているそうです。世代が代っていくごとに、日本でもそうなっていく可能性はあると思われます。
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