会社分割か株式移転か
25日付日経新聞「オークマ、グループ2社と経営統合・経営基盤強化」から。
工作機械大手のオークマは24日、10月1日付で持ち株会社に移行し、グループ会社で東証一部の大隈豊和機械、名証上場の大隈エンジニアリングの2社と経営統合すると発表した。今年の工作機械市場は減速が見込まれており、グループの開発や生産、販売力を結集して経営基盤を強化する。新たに発足する持ち株会社の社長には柏淳郎オークマ社長が就任する。
会社側のプレスリリースはこちらです(pdfファイルです)。それによりますと、旧オークマ(オークマホールディングスに社名変更)から事業部門が分社型分割により新会社(オークマホールディングの100%の子会社)になり、オークマホールディングが大隈豊和機械と大隈エンジニアリングを株式交換により100%子会社化する、というステップが予定されています。トステムが会社分割で事業部門を分社化し、純粋持株会社がINAXを株式交換により100%子会社化したのと同じ手法です。
同じ結果をもたらす再編手法としては、3社が株式移転により完全親会社オークマホールディングスを新設する方法も考えられます。日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行の3行がみずほホールディングを設立したのと同じ手法です。
この違いは、今回オークマがとった手法では、純粋持株会社が旧オークマの法人格を継承するのに対し、株式移転方式では、純粋持株会社は新設で、旧オークマの法人格を継承するのは、事業子会社であるオークマであるという点です。些細な違いに見えるかもしれませんが、その後の純粋持株会社体制の運営に影響が出ます。
オークマ方式では、旧オークマが持つ(もしあればですが)知的財産権や剰余金は、オークマホールディングスが継承します。従って、オークマホールディングス単体の収入基盤として知的財産権のライセンス収入や純粋持株会社になった直後の配当可能原資も確保できます。
株式移転方式では、新設されるオークマホールディングスの資本の部は資本と資本準備金ですから、配当可能原資はありません。設立第1期目の決算が出てからでないと、資本準備金の取り崩しはできないでしょうから、もともと無配の予定でもない限りは、配当可能原資を捻り出す工夫が必要です。子会社の定款変更をして、中間配当日を変えた例もあったようです。会社法現代化が施行されると、随時配当のような行為が可能になる時代ですから、問題はなくなるのかもしれませんが、子会社の利益蓄積が減少することは問題かしれません。
また、株式移転方式により設立されたオークマホールディングスの収入源は、何もしなければ子会社からの配当金のみです。株式移転により発生した完全親子会社関係では、100%子会社からの配当金は最初から全額益金不算入ですから、オークマホールディングスは税務上赤字の会社になってしまいます。
株式移転方式にメリットがないかといえば、そうではありません。事業会社の事業継続に必要な許認可がある場合、事業会社が現在営業中の会社の法人格を継承することが必須条件になります。その場合は、株式移転で完全親会社を設立しないといけません。
結局は、個別事情により最適な経営統合方式を選択しなければ、後で苦しみます、ということです。
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